低炭素化の緊急性は、もはや「やるべきか」ではなく「いかに大規模に資金調達するか」にかかっています。現在の試算では、2030年までに世界の気候金融ニーズを満たすには年間約7.4 兆米ドルが必要です。一方、実際に投入されている資本はその額に遠く及びません。脱炭素目標達成に向けた資金ギャップが顕在化しています。
BNPパリバはロンドン、マドリード、東京でサステナブル・フューチャー・フォーラムを主催し、低炭素社会への道のりが「共通の戦略に基づく相互に結びついた幅広い協働」によって、ますます形作られていることが探求されました。
政策と金融を連携させて
資本フローを引き出す
ロンドン: 共通規範がなければ、どんなに大きな資本プールでも活用されません。BNP パリバ 英国における代表者 Emmanuelle Bury は次のように語りました。

❝ もはや『転換すべきか』を議論しているのではなく、‘どうすれば取引として成立させられるか’を議論しています。技術の成熟度、規制、資本フローを合わせなければ、脱炭素のロードマップは紙上の信頼性にとどまり、実際の投資対象にはなりません。❞
この議論では、UK Transition Finance Councilが策定中のトランジション・ファイナンスの指針やセクター別ロードマップを参照しました。同Councilの目標は、政策・産業・金融の間に共通言語を作り、投資家が「野心」と「実際の成果」を区別できるようにすることです。
マドリード: BNP パリバ・アセットマネジメント イベリアのマネージング・ディレクター Sol Hurtado de Mendozaは、現在のESG規制ネットワークと欧州委員会のロードマップがしばしば「ジェットコースターのように感じられる」ことを指摘しました。同内容はKPMG の最新レポートでも指摘されています。規則をより明確かつ簡素化すれば、サステナビリティ推進が加速すると強調しました。
東京: BNP パリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長 チーフクレジットストラテジスト/チーフESGストラテジストの中空 麻奈は、日本では、GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債が発行され、企業のESG 開示が積極的に進められていることを紹介しました。これにより、日本の産業優位性を守ると同時に市場の更なる成長が期待されると述べました。
新興技術へのリスク低減:
パートナーシップの実例
各フォーラムは、官民連携が新興技術を資本が流入しやすい段階へ引き上げる方法について議論しました。McKinseyの調査によれば、2023‑2030年までに新興技術エコノミーは約1 兆米ドルの企業価値を創出し、欧州で最大100万人の雇用を生む可能性があります。
ロンドン: 早期段階の技術リスクを低減するために、公共資金・保証・ブレンデッドファイナンスを組み合わせる必要があると結論付けられました。銀行、機関投資家、政府が連携し、水素、産業電化、炭素回収といったソリューションをスケールアップさせることが重要です。
マドリード: サステナビリティが「経済的論理と経験に裏付けられた長期的価値」へと変換されることが強調されました。例えば、Spanish Cooperation Master Plan for Sustainable Development and Global Solidarity (2024‑2027)では、協調的な取り組みによって新たな概念や手法を提示し、スペインが現在の重大なグローバル課題に立ち向かい、持続可能な開発の先進的リーダーとしての地位を確固たるものにすることを目指しています。
東京: UNEP の 2025 Adaptation Gap Report によると、東アジア・太平洋地域が世界で最も高い適応コストを抱えていると指摘されました。炭素価格メカニズムからの将来収益で裏付けられたGX経済移行債の発行は、サーキュラーエコノミーや気候適応プロジェクトへの早期投資を可能にします。実際、10月に東京都は「レジリエンスボンド(国際認証取得済) 」を発行し、流れの象徴となりました。
ESG データの重要性
ロンドン: 信頼性が高く比較可能なデータは、統合された資金調達エコシステムを支える“接着剤”であり、ESG データ戦略は意思決定において極めて重要です。ロンドンのフォーラムでは、UK Transition Finance Councilの手法に基づく統一的なトランジション・ファイナンス指標が、投資家に対してプロジェクトのサステナビリティ主張を検証・測定可能にする自信を与えると強調されました。Deloitteの調査では、英国投資家の97 %が安定した政策枠組みを必須条件とし、62 %が技術リスクに対して低い許容度を示しています。
マドリード: ESG 報告の標準化が「新たな国際秩序」における競争力のレバーと位置づけられ、スペインの気候緊急プランが任意報告から強制的枠組みへシフトし、炭素会計・スコープ3排出量・国家レジリエンス戦略を統合する方向性が示されました。
東京: 米国・欧州で規制ハードルが上昇する一方で、日本は独自路線を歩んでいると語られました。「地球は待ったなしの状況であり、積極的に進んでいくことが大事です」と中空は述べました。
日本は、2022年に「サステナビリティ基準委員会 (SSBJ)」を設立し、世界的なESG基準を国内向けに実務に即した形で導入できるようにしています。
ローカル市場での
戦略的ポジショニング強化
政策・金融・データが整合すれば、サステナビリティは各地域にとって競争上の優位性となります。
英国: 低炭素インフラ議題は、もはやニッチなサステナビリティ課題ではなく、産業競争力とエネルギー安全保障を牽引する要因です。Buryは、英国が2030年までに排出量を81 % 削減する目標は、政策・テクノロジー・資本市場が統合されたファイナンスモデルなしには実現できないと語りました。
スペイン: 金融業がお客様のプロジェクトを支援し、欧州の戦略的自律性を高める重要性が強調されました。スペインは過去にEUのイノベーション・産業競争力政策形成に寄与しており、EU議長国として再産業化と戦略的自律性を議題の中心に据えました。
日本: BNPパリバ グローバルマーケット チーフ・サステナビリティ・オフィサーのConstance Chalchatは、「サステナブルファイナンスは従来のESGを超えて“適応(Adaptation)・保全(Conservation)・トランジション(Transition)・社会的レジリエンス(Social Resilience)”の4つの柱に基づく多面的かつローカルに適合したものへと進化している」と述べました。そして、4つの柱は、長期的に価値を創出するための、実務的で目的志向のアプローチであることを強調しました。

❝ サステナブルファイナンスは従来のESGを超えて“適応(Adaptation)・保全(Conservation)・トランジション(Transition)・社会的レジリエンス(Social Resilience)”の4つの柱に基づく多面的かつローカルに適合したものへと進化している ❞
低炭素・持続可能な経済への転換は、単なる野望ではなく、政策・金融・データが連携し、地域ごとの実情に合わせた具体的な行動が不可欠です。ロンドン、マドリード、東京のフォーラムで共有された知見は、これらの要素が合致したとき、サステナビリティが新たな価値とレジリエンスを解き放ち、企業や社会にとっての戦略的優位性となることを示しています。