トランジション・ボンド:アジアにおける金融機関及び政府による展開

BNPパリバのチームは、アジア地域の銀行及び政府が主導するトランジション・ボンドの拡大状況について、最新の知見を共有します。

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金融機関及び政府を介した資本調達は、ネット・ゼロへの移行における重要な手段になります。アジアは、債券発行体、政府及び投資家にとって、新たなサステナブル資本市場のイノベ金融機関及び政府を介した資本調達は、ネット・ゼロへの移行における重要な手段になります。アジアは、債券発行体、政府及び投資家にとって、新たなサステナブル資本市場のイノベーションを通じて低炭素経済への移行推進が期待できる地域として、急速にその重要性を高めています。

国際的には未だ、トランジション・ボンドに特化した原則は定められていません。しかし、資金使途を排出低減困難なセクターに特定したトランジション・ボンドは、堅実なトランジション戦略に下支えされ、アジア地域の銀行及び政府にとっては迅速に投融資を募り、大規模な脱炭素化を実施するための重要な資金調達手段と言えます。BNPパリバの同地域及び機関投資家分野の専門家による市場の先行き及び展望は以下のとおりです。

日本が掲げる150兆円のトランジション目標

10月に東京で開催された、世界最大規模を誇るイベントのひとつであるPRI in Person 2023では、ESG投資にコミットする投資家や金融機関など1,000人以上の専門家が集結し、サステナブル金融市場を方向付ける最新の状況について議論が交わされました。 

同イベントでは、岸田 文雄 内閣総理大臣が冒頭演説を行い、サステナビリティを経済成長の好機へ転換するために日本政府が掲げる取り組みである「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」の枠組みについて重点的に述べられました。日本では、2050年のネット・ゼロ実現に向け、10年間で150兆円(1兆ドル)超の官民投資を実現するため、カーボンプライシングの実施方針を含む基本的戦略がまとめられています。

トランジション戦略は、GX推進戦略において根幹をなしています。日本においては世界初の国が発行するトランジション・ボンドを「クライメート・トランジション・ボンド」として本年度内に発行されます。

岸田首相は「GX経済移行債を皮切りに、トランジション・ファイナンスを更に推進いたします。経済全体を脱炭素に導くトランジション・ファイナンスは、世界の構造転換に必要不可欠です。」と述べています。

BNPパリバのESG・サステナビリティ及びプライベート資本・金融機関カバレージのグローバル部長であるマリー・グウェナエル‐ジェフロワ氏はPRI in Personに出席し、アジアにおける政府主導のトランジション・ファイナンスのより広い導入に関する考察を行い「それがトランジション・ファイナンスに関する政府の行動に及べば、各市場は最終的にネット・ゼロに沿った独自の軌道に向けて大きく拡大するだろう。日本の官民部門の指導者及び投資家が資本市場における新たなファイナンシャル・イノベーションの発展のために結集しているのは、アジア太平洋地域においてサステナブル・ファイナンスがいかにトランジションを支えているかを示す最たる例と言えます。」と結びました。

トランジション・ボンドによる中国の鉄鋼業界の脱炭素化  

中国においては、炭素排出量の多い産業部門の脱炭素化を促すきっかけとなるトランジション・ファイナンスが拡大しています。BNPパリバは先ごろ、中国銀行のルクセンブルグ支店に対し、ある金融機関が発行した世界初の資金使途特定型(鉄鋼分野)のグリーントランジション・ボンドの発行を支援しました。中国で最も鉄鋼業が盛んな河北省において、3億ユーロのトランジション・ボンドが、鉄鋼業界の脱炭素化を推進するための資金として投資されることになります。中国銀行の新規トランジション・ボンドの資金使途特定型のプロジェクトには以下が含まれます:

  • 鉄鋼製造工程における、炭素排出量またはエネルギー消費量の低減。
  • 鉄スクラップの収集及びリサイクル、及び製鋼における鉄スクラップの再使用。

ICMAトランジション・ファイナンス・ハンドブック(2023年)の勧告事項、及びグリーンボンド原則(2021年)に則り、トランジション・ボンドにおける適格プロジェクトは、産業経済活動分類、IPSF共通グランド・タクソノミー、EUタクソノミーまたはクライメート・ボンドイニシアティブ部門の基準に則したものとなっています。BNPパリバはジョイント・トランジションボンド・ストラクチャリング・アドバイザー及びボンドに関するジョイント・リードマネージャーの役割を果たしました。

この取引きは2021年に中国銀行が発行した最初のトランジション・ボンドに続くもので、発行体のサステナブル・ファイナンスに対するコミットメント及び中国における鉄鋼産業のグリーン化の機運を例証しています。

中国の鉄鋼産業におけるグリーン投資は、気候及び経済的な観点から避けて通れない差し迫った事情に支持されています。中国においてGDPの5%を占める鉄鋼産業による炭素排出量は国全体の15%に上ります。気候債イニシアティブによれば、中国の鉄鋼産業におけるカーボンニュートラルの実現には約20兆人民元(3兆1400億ドル)の投資が必要であると推測されます。

BNPパリバ・アジア太平洋地域サステナブル資本市場部長のチャオ二・フアン氏によれば、「BNPパリバは、このトランジション・ボンドのストラクチャリングにおいて、確固たる国際基準及び勧告に則り、中国銀行を支援できたことを誇りに思っています。この取引の成功は、アジアの排出量が多い産業部門のためのトランジション・ファイナンスの規模を拡大するための大きな前進と言えるでしょう。」