ESGレポートは情報開示と規制遵守のみならず、多くの分野において顧客や投資家に持続可能性のリーダーシップを示し、競合他社に対する優位性を持つためにも一層重要性が増しています。
ネットゼロ目標の設定と達成を目指すアジアの企業は、多様なESG規制環境への対応、排出量の計算と目標の定義、ESG戦略に関するアドバイスなど、提携銀行への依存度が高まっています。
BNPパリバのAsset Benchmark Researchチームは、アジア太平洋地域に展開する企業のCEO、CFO、CSO、その他の上級管理職200人以上を対象に調査を実施しました。
調査結果により、規制遵守、データの可用性から財務上の制約まで、複雑化するESG環境への対応において企業が直面する課題が浮き彫りになりました。
アジア太平洋地域が担う重要な役割
アジア太平洋地域は、経済の急成長、大規模な人口、世界中と連携したサプライ・チェーンにより、世界の温室効果ガス(GHG)排出量の約51%を占めており、世界の気候変動に関して極めて重要な役割を果たしていることから、ESGに関連した規制や企業戦略が大幅に増加しています。
同調査によると、3分の1以上のアジア企業がネットゼロ目標を設定し、欧州・アジア地域で高まるESG規制圧力への対応を加速させている一方で、依然として企業は規制要件の不均一性、戦略の欠如、財務上の障壁、データの制限に関する課題に直面していることも判明しました。
規制が突きつける課題
多くの企業(回答者の58%)において、規制遵守が今後3年間における重要な目標として設定されており、アジア以外に本社を置く企業ではさらにその傾向が強くなっています。このことは、規制圧力がESGの導入と開示を推進する上で重要な役割を果たしていることを浮かび上がらせています。
アジア企業、非アジア企業に対する規制への対応と並行して、調査対象のアジア企業の56%が、ESGが自社のビジネスに与える影響の把握に取り組んでいます。翻って、非アジア企業は、2番目の優先事項として環境と社会への貢献を挙げています。
カーボン・フットプリントの課題
多くの企業が、多様で急速に進化する規制により、効果的なESG戦略を策定・実装するべきと感じています。
しかし同調査によると、多くの企業は依然として排出量を定量化しておらず、これは特にアジア企業や非上場企業において顕著に見られました。 スコープ3に関しては、間接排出を定量化しているのはアジア企業のわずか6%、欧米企業の24%にとどまりました。これは、企業が新たな規制に準拠するために効果的なスコープ3の算定と検証を実施する上で、大きな課題に直面していることを意味しています。
同調査によると、回答者の58%が社会的課題やガバナンスに関する課題よりも、環境的課題に直面していると回答し、32%が自社にとって社会的課題への対応が喫緊であると考えていることがわかりました。また、37%はガバナンスに関する課題が最も重要であると回答しています。全体として、ESGに関する課題は、アジア企業よりも非アジア企業へより差し迫るものであることが読み取れます。
これらの課題に対応するため、一部の企業は提携金融機関に支援を求めており、サステナブルファイナンスおよびESG課題への対応におけるCFOおよび財務担当者の役割の変化が顕著化しています。
統合プロセスを加速するために、回答企業の63%が、業界の重要な課題に関するガイダンス、競合他社のベンチマーク、規制に関するアドバイス、ESG報告に関するサポートなどのアドバイザリー・サービスを提携金融機関に求めています。
BNPパリバでトランザクション・バンキングのサステナビリティ責任者を務めるEric Tran氏 は、次のように述べています:「CFOと財務担当者の役割は、投資家の見解、同業他社、主要トレンドに関するESG情報の収集およびサステナブルファイナンスの枠組みと手段(取引を含む)の導入を拡大し、組織全体でESG投資とKPIを調整することです。」
❝ CFOと財務担当者の役割は、投資家の見解、同業他社、主要トレンドに関するESG情報の収集およびサステナブルファイナンスの枠組みと手段(取引を含む)の導入を拡大し、組織全体でESG投資とKPIを調整することです。 ❞
明確な戦略の必要性
明確なESG戦略の確立は持続可能性に向けた重要な出発点であるものの、BNPパリバの調査において、明確な戦略の欠如がESG統合を阻む要因の第2位に挙げられており、回答者の34%が自社にESG目標がないと回答しています。効果的かつ持続可能な戦略の策定・実装は、リスク管理、規制遵守または競争上の優位性構築のために、多くの企業にとって急務となっています。
また、企業が ESG戦略を実装する上での課題として、資金源の確保も挙げられています。同調査によれば、回答者の40%がESG導入遅延の理由として予算上の制限を挙げ、43%が初期費用の高さを主な障害として挙げています。
グリーン・サプライチェーン
調査で明らかになった最も重大なギャップの1つに、企業の温室効果ガス排出量測定能力があります。調査対象企業の約70%が温室効果ガス排出量を完全に追跡していないことが判明しました。炭素会計を実行できる企業のうち、バリューチェーンに沿ってスコープ3排出量を測定している企業は10%未満に過ぎません。
企業がESG戦略を推進し、スコープ3ギャップに対処するために、多方面における金融機関との提携が増加しています。持続可能なサプライ・チェーン・ファイナンス・ソリューションは、企業にバリューチェーン全体で変化を推進する大きな機会を提供します。サプライ・チェーンにおいてESGを考慮することにより、企業は競争力の強化、気候変動への耐性構築で、長期的経営効率向上を目指すことが可能になります。
Tran氏はBNPパリバが、どのように企業のサステナブルファイナンスを支援しているかについて以下のように述べています。 「過去数年間、私たちは革新的なESGソリューション・プロバイダーと提携し、顧客のバリューチェーン全体にわたるESGデータ収集をサポートし、ESGの重要課題に沿ったKPIと目標の設定を支援してきました。企業は財政的インセンティブを通じてサプライヤーに持続可能な慣行の採用を奨励し、前向きな変化の波及効果を促進することができます。」
イノベーションと共通のコミットメントが前進への道
その他の革新的なアプローチとして、公的資金と民間資金を組み合わせたブレンデッド・ファイナンスや、国際開発金融機関(MDBs)、NGO、国際機関との戦略的パートナーシップがあり、特に持続可能な開発の必要性が差し迫っている新興市場や発展途上市場において、持続可能なソリューションの展開をさらに促すことができます。
低炭素社会への移行が世界的に進行する中、企業は持続可能性を自社の中核業務や意思決定プロセスに組み込む必要に迫られている。再生可能エネルギーへの投資、サーキュラーエコノミーの原則採用、環境および社会への影響を測定・管理するための強固なシステム導入により、自社の事業を将来にわたって保証し、リスクを軽減し、急速に進化する持続可能な社会において新たな機会活用につなげることができます。
BNPパリバのアジア太平洋地域でグローバル・トレード・ソリューション部の責任者を務めるCynthia Tchikoltsoff氏は、次のように述べています: 「より持続可能かつ回復力のある経済には、協力、革新、そして責任あるビジネス慣行に関する共通のコミットメントが必要です。戦略的パートナーシップを採用し、エコシステムの専門知識を活用し、進化し続けるESGの状況に常に注意を払うことで、企業はすべての利害関係者にとってより包括的で豊かな未来を築くための世界的な取り組みに貢献することができます。」
❝ より持続可能かつ回復力のある経済には、協力、革新、そして責任あるビジネス慣行に関する共通のコミットメントが必要です。戦略的パートナーシップを採用し、エコシステムの専門知識を活用し、進化するESGの状況に常に注意を払うことで、企業はすべての利害関係者にとってより包括的で豊かな未来を築くための世界的な取り組みに貢献することができます。 ❞